2017年12月10日日曜日

オリエンテーリングとOMMの関係性

この記事は2017年アドベントカレンダー「今年もオリエンテーリングを語ろう(裏版)」の1つの記事として書いています。

まず、自己紹介します。私は福西佑紀といいまして、2011年に椛の湖インカレで大学オリエンテーリング現役を卒業した後、春インカレを3年連続運営しました。全国同期には昨年までのインカレ実行委員長経験者も多くいます。

私はその一方で2013年からTEAM阿闍梨という団体に所属し、ナビゲーションスポーツの普及活動に関わっています。私を多少なり知っている人は、私のことを運営寄りの人と思っているかもしれません。その認識は実態としてあまり間違っていないですが、ロングディスタンスのM21Aをそれなりの順位で走れるくらいには体力はずっと維持していきたいですね。


さて、近年のTEAM阿闍梨が最も強く関わっているイベントとして、OMM JAPAN(※OMM: Original Mountain Marathon)があります。自分も4年連続で運営スタッフとして携わっています。昨日公開された宮西さんの記事でも参加者視点で触れられていました。
このアドベントカレンダー記事ではこの機会に、今年は過去最多の約1,300人の参加者を集めたこのイベントをオリエンテーリングの視点から俯瞰してみたいと思います。オリエンテーリングに足りないような良いところは取り入れて活用しよう、という感じで。



OMM JAPANとは

OMMの発祥は1968年のイギリスであり、今年は第50回大会のThe OMM(発祥国イギリスでの大会をThe OMMといい、その他各国での大会をOMM Franceなど国名を付けていう)が開かれました。元はといえば悪天候に耐えうるウェア・ギアの販売を促進するために開始されたようです。売り物の需要を自分で作る、素晴らしい戦略です。

日本ではその製品とともにレースコンセプトをノマディクスという会社が輸入して2014年に第1回大会があり、今年までに毎年11月に4回開かれているイベントです。第2回以降11月第2週の週末に開催日が固定されている(はず)なのでオリエンテーリング大会としてはインカレロング・スプリントと被ることも多いですね。

第1回の開催以降トレラン系雑誌でもよく取り上げられ、毎年10名以上のオリエンティアも参加しているのでイベント内容を知っている人も多いでしょうが、簡単に言うと、1/25,000程度の地形図のような地図にオリエンテーリングのようにコントロールが書いてあり、ポイントOやスコアOのようにタイムや点数を2日間合計で競い、その間の夜は指定された場所で野営し、その間に必要な荷物は全て携帯するというイベントです。計測にはペア1名の手首にバンドで取り付けられたSIを用います。これ以上の説明は公式サイトやインターネット上にたくさんある参加レポートなどを見てください。
イベントの競技面全体と計測、安全を支えているのはオリエンテーリング関係者が中心です。


OMMとオリエンテーリングの比較

OMM(イベント)とオリエンテーリングの主な違いをまとめてみます。

1.ペアと個人

OMMはペアでの出場のみに制限されています。山の総合力を試すという触れ込み上、山の中で危険な状態(極度の疲労、脱水、捻挫、滑落、野生動物との遭遇など)になるリスクが小さくないので、その場合でも一定の安全性を確保するために2人での行動が義務付けられているのでしょう。

一方、オリエンテーリングは競技なので1人が基本ですね。ただ、地図読みスキルの低い人が1人で山に放り込まれるのはとても不安だと思います。それがオリエンテーリングをやってみたいと思ってみた人の障壁になっている気がします。知り合いにオリエンティアがいるという人は稀少でしょう。
そのような「ちょっと興味を持ってみた」人が参加しやすいような、ペアオリエンテーリングというクラスも作ってはどうでしょうか?イベントによってはグループクラスもあるにはありますが、ちょっと興味を持った初心者がそのクラスを容易に見つけられるとは思えないですよね。。

2.年1回と月1回

OMM JAPANは年に1回しか開かれません(LITE/BIKEは除く)。準備の負担も理由にはあるでしょうが、結果的に希少性を高めることにもなっていますね。春夏のLITE/BIKE(自転車でも出られる)と比較して、(実際には誰でも出られるのですが、)OMM JAPANが本戦と呼ばれることもあります。年1回しかないからこそ少々遠方でも参加者が集まるという面があり、またアウトドア界隈としては人が集まる→OMMに出る人に会うために出る→人が集まる、という好循環もあるように見えます。

オリエンテーリングは毎週各地で大会が開かれていますね。気軽に行ける範囲で行われる大会は少ないかもしれませんが、年1回に比べれば多いでしょう。オリエンテーリング大会は比較対象が多いので、集客に苦戦することもあるかもしれません。ただ、コンセプトのある大会は人も集まりやすいですよね。他の大会と比較した魅力の創出は大事です。

3.2日間と1時間

OMMは2日間の大会です。ストレートクラスは2日間のタイムの合計、スコアクラスは得点の合計で順位が決まります。その競技時間はロング・ショートなど細かなクラス分けによって異なりますが大体1日5時間~7時間くらいです。オリエンテーリングのレースが基本的には1日ごとの開催で、フォレストなら1時間前後のタイムで終わるとのは対照的です。

オリエンテーリングは慣れた人なら高い速度で走り続けられるので1時間程度でも十分な運動になりますが、初心者は迷って止まりがちですよね。その一方で、1日の時間の使い方を考えた時に、1時間程度で終わってしまうオリエンテーリングのために1日の昼間の大半を費やしてしまうのは何だか非効率な気がする、というのは誰しも1度は感じたことがあるでしょう。会場で知り合いとレース前後で地図談義ができればいいですが、そういう人がいなければムダな時間を過ごしてしまっていると感じてしまうこともあります。1日を過ごすに見合う魅力のあるイベントか、というのはその他アクティビティと比較する時に必要な観点でしょう。

オリエンテーリングのレースを1本走った後、自由に山に戻って復習できるような自由度があると満足度が高くなることも多いと思います。オリエンテーリング特有の公平性、厳格さを求めると許容しにくいかもしれませんが。。

4.縮尺と植生、地図

オリエンテーリングの地図が独自のものであることは皆様ご存知の通りです。OMMは、数値地図をベースに私有地の着色など調整して作製されていますが、基本的には一般的な地形図に似ています。
初心者が初めてオリエンテーリング地図を持つとその正確な表現に驚くことがほとんどで、逆にオリエンティアが地形図でナビゲーションをするとその曖昧さに悩む人が多いです。どちらも縮尺に応じた見やすさを追求して総描された結果であり、両者を特徴づけていると思います。

5.楽しみ方の多様性

オリエンテーリングは基本的に個人のタイムレースであり、結果はほぼタイムでしか出てきません。コース距離に対する時間も(トレラン以上に)一定ではないので、もちろん順位以外の楽しみ方も人それぞれにありますが、順位を競うのが基本です。

OMMではタイムや得点以外にも長時間のレースのマネジメントがあったり、他の参加者とのふれあいがあったり(長時間レースなので皆余裕を持って走っているため可能)して、また常にペアとの行動なので気軽に会話もできます。さらに、1日目と2日目の間の野営の時間(さらに言えば宴会)が楽しみで参加している人もかなりいます。

初心者が楽しめるか、というのはどんなアクティビティでも裾野の拡大には重要な要素でしょう。始めるのに機材が必要だったり、準備が必要だったりすると気軽に参加することは難しいです。OMMはそのレースの特性から必携装備品が多く定められており、参加が難しいと思うかもしれません。ただ、どれも山で快適に過ごすのであれば当たり前に必要なものばかりであり、広く山を楽しむためと捉えれば揃えるのは難しくないでしょう。OMMの開催地は毎年異なるため、その場所の気候やフィールド特性に応じて装備を調整するのも参加者の楽しみの1つになっています。

タイムや得点を追わなくてもその時間と空間を楽しめる空気がある、というのはオリエンテーリングにはない大きな魅力ですし、実際、順位を追い求めているチームは限られた人だと思っています。完走目標のチームも多いです。気質の違いがありますね。



オリエンテーリング普及の視点

地図読みスキルを必要とするアクティビティーにはオリエンテーリングだけではなくロゲイニングやアドベンチャーレース、それこそ街歩きや古地図散歩も該当するでしょう。その中でオリエンテーリングは地図の曖昧さを極力排してタイムレースの競技として成立するようにした、極限のスポーツなわけで、地図読みヒエラルキーの頂点にあります。

頂点にある競技の普及のためにはその裾野を広げるのが必要なのは当然であり、オリエンテーリングの中だけで人を集めようとしても難しいのは事実です。オリエンテーリングの愛好者を増やすためには隣接領域から徐々に興味を持つ人を増やしていくのが妥当であり、隣接領域の普及のために労力を使うのは一定の妥当性があると判断して良いでしょう。オリエンテーリングの隣接アクティビティの1つがOMMであり、オリエンティアが良い順位を獲得してプレゼンスを高めることは、オリエンテーリングへの興味関心を広めることに役立ちます。そこからいかにオリエンテーリングイベントへの参加につなげるかが重要ですね。

OMMでは地図読みが必須スキルであるため、地図読みスキルを向上させたいと思う人は一定数いると思いますが、向上させたいと思う度合いは人それぞれで、そのためにわざわざオリエンテーリングの大会にまで出ようと思う人は少数派でしょう。普通なら巷の書店にたくさん販売されている地図読みに関する書籍や雑誌を読んだり、自分より地図読みができる知り合いに聞いてみるでしょう。

マーケティング理論は詳しくないですが、少し調べた限りでは人々が何かのファンになるまでには
 認知 → 関心 → 検索・調査 → 比較検討 → 購入・参加 → 情報共有
というプロセスを辿るらしく、この全てのプロセスにきちんとアプローチすることが大事です。
 認知   :オリエンテーリングとは地図を持って走る競技だということを情報に触れてもらう
 関心   :オリエンテーリングを(スポーツ・イベントとして)楽しそうと思ってもらう
 検索・調査:調査すれば見つかるだけの情報を提供する
 比較検討 :参加したいと思うだけの(外面的な)魅力をアピールする
 購入・参加:エントリー、参加しやすい環境を作る
 情報共有 :参加した人が周りの人に広めたくなるような体験をさせてあげる

オリエンテーリングが特性として弱いのは比較検討から参加に至るまでの、外面的な魅力をアピールする部分ですね。一般の人には魅力が伝わりづらい。この観点では、@hamauzuさんが最近広めているようなよくできたオリエンテーリング動画を一般向けにも広く活用するのが近道だと思います。

OMMはブランドイメージ作りも大事にしていますし(例:Facebookページ)、参加した人が感想をSNSで広く共有することが自然発生的に行われているので上手く行っていると感じています。


OMMで上位に入るには

やや視点を変えてオリエンティアがOMMに参加しようと思った場合に気になる事項ですが、マウンテンマラソンというだけに、地図読み能力だけではなく走力も重要です。特に2017年大会は走力重視の志向が強いと言われました。また、1人8kg程度の荷物を背負った上で長時間のランになるので、空身で短時間走ることに慣れているオリエンティアにとっては厳しい運動になります。体力面を鍛えるためには、5時間のロゲイニングで大体走れていれば大丈夫でしょう。ただ、入賞するにはそれなりの体力(走力+持久力)が求められます。ストレートの上位クラスならなおさらです。

地図読みの面ではオリエンティアならほぼ問題ないレベルの位置にしかコントロールは置かれないので安心ですが、地図には植生が描かれていないので通りやすいところ、そうでないところを地図から想像する能力が必要になります。慣れればある程度想像がつくようになりますが、小縮尺の地図の曖昧さをストレスに感じるオリエンティアは多いので注意が必要でしょう。


関連イベント

TEAM阿闍梨では、地図読みに興味を持った人のためのオリエンテーリングイベントを開いています。2016年1月に開催されてエリートクラスの完走者が2名(小泉さん・村越さん)しかおらず伝説になった(と勝手に思っている)OMO(奥武蔵マウンテンオリエンテーリング)というイベント。2018年3月にも第3回の開催を予定しています。これまで2回開催していて第2回もエリートクラスの完走は4名しかいないのですが、レギュラークラス含めてOMMのようなナビゲーションの機会を提供するイベントとして人気になっています。

また、東大OLK大会や茶の里いるま大会などではOMMを意識したクラスが昨年から?設けられていますね。同様の参加者層で人気だと思います。オリエンテーリング大会でただコントロール位置が易しめで距離が長めのクラスを作るだけだと広報力、アピール力に欠けるのでいかにオリエンテーリングに不慣れな参加者が楽しく過ごせると思えるような場を作るかがポイントでしょうかね。


まとめ

まとめるほどのことはないですが、OMM JAPANにはオリエンテーリングにない魅力があるからこそ多くの参加者を集めていることは確かだと思います。
オリエンテーリングと同じナビゲーションスキルを用いたイベントとして排他的に思う必要は全くなく、オリエンテーリングをする人はロゲイニングイベントにも地図好きの会合にも何度か参加してみてオリエンテーリングの楽しさを見つめ直してみるのはいかがでしょうか?