2017年9月11日月曜日

恐怖と疲れと意識の変化。 白山ジオトレイル6日目

朝は皆が準備している間もできるだけ寝る。ただ5時過ぎには起き出した。雨の降る中スタート地点へ移動する選手を見送り、自分の準備をする。そのうち自分の荷物の置かれているテントを除いて片付けられ、スタッフによるキャンプ場の片付けがだんだん進んでいく。キャンプ場は屋根のあるピロティ状のゲートボール場だったので、レイトスタートの選手はテントの外に荷物を出して準備していた。自分もとりあえずテントの外に荷物を出して、スタッフと談笑しつつゆっくりと準備を整える。降り続く雨は朝の間は止まなさそうだった。


選手3人でスタート地点へ移動し、やはり雨の中スタート。すぐにそれぞれのペースで走り出す。自分は真ん中で、車道を走っている間に前も後ろも見えなくなって単独走の時間となった。
雨が強く降り続き、まるで服を着たままシャワーを浴びているような時間もあったが、動き続けている間は体温を維持できて大丈夫という感じ。登りはストックをフルに使って軽快に歩く。先は長いので無理しない。
じきに第1CPに着き、大雨警報が出ていることを知らされながらも激励を受けて通過する。大雨の中、小さなテント屋根の下に集まるスタッフも大変である。

いつ先行者の最後尾に追い付くだろうか、速度比が2倍だったら2時間で、1.8倍だったら2時間半、公式は…、数式変形すると…、その時のおおよその距離は…などと考えながら引き続きアスファルト道を登り、登りきったら今度は長い未舗装道路下り。下りていくと、斜面から水が溢れ出てきていて、靴が完全に水没するような箇所も多々通過した。
ほぼ下りきってついに最後尾とスイーパーに追いついた辺りでは、5~10cm大の石が水と一緒に流れてくるような濁流が5mほどの幅で林道を横切っていてそこを渡らなければならないような場所も1カ所と言わず3カ所ほどもあった。さすがにそこでは足が流れに持って行かれて川に落ちて流されるか石が足首に衝突して怪我するという恐怖を感じ、慎重に慎重を重ねて、滑らないように最大限の注意を払って進んだ。ストックがあることで、濁流の下で見えない地面の足場を確かめることができて良かった。自分は体力があるからまだ良いが、疲れてゆっくりしか動けない選手には酷く辛い状況だろうと感じられた。
ただ、予報通り昼が近づくにつれて雨は弱まり、止んだ。林道を抜け、車道に出たときには安堵した。そこから先ではトンネルをいくつか抜けるため後尾フラッシュライトの点検あり。スタート時にザックに取り付けておいたのが大雨で外れていなくて良かった。

滑りやすいトンネルの端を歩いて抜け、橋を渡るとCP2に到着。さあここからの区間、どんどん追いつき追い抜くぞ、と思っていたら土砂災害警報発令によるレース中断をスタッフに知らされる。そうか、ちらっと見えた、CP横の集会所で休んでいた選手は休憩じゃなく送迎待ちだったのか、とすぐに気づいた。自分もその仲間に入って迎えを待つ。乗せられたスタッフの車で今日のフィニッシュ地点予定だったバードハミング鳥越までしばらく走って送られる。着くと、ちょっとした建物の中で、前を走っていたであろう選手たちがみんな休んでいた。低体温か、エマージェンシィシートに巻かれている人もいた。
相羽さんと赤坂さんが急いでレース再開後新コースの検討をしている間、お湯が準備されていたのでクラムチャウダーと補給食を食べる。寒くはなく、備えをできるだけ万全にする。新コースのテープ巻きをしてきたらしい高坂さんと愛馬さんが最終的な相談をしてコースが決定された。元々予定されていたコース終盤の電力鉄塔巡視路区間はそのままに、その区間の開始地点までロードをひたすら走る25kmほどのコース。準備ができた人から順次スタート。というブリーフィングもそこそこにレース再開。

どんどんスタートしていった前の選手を追い抜きつつCPへ。後ろには久保田さんがいて、自分のペースが遅いのか、差が開かなかった。

そのうち、自分よりだいぶ遅くスタートしたであろう若岡さんに昨日と同じように颯爽と追い抜かれる。気にせず、というか気にしてもしょうがないのできちんと道の分岐を確認してようやくトレイルの入り口に到着。水本さんの激励を受ける。
トレイルの足場は良くなく、ストックを使ってゆっくり進む。疲れから、登りで全くスピードが上がっていなかった。久保田さんに道を譲って先に行ってもらった。巡視路は尾根上に登るまでが急で、登ってしまえばそれほど辛くないという事前情報だったが、その最初の登りで限界に近づいていっていた。
しかしその際、登り疲れて立ったまま休憩しているとき、「もうレースは残り少ないのに、こんなに(慣れない)ストックに頼る必要はあるんだろうか」という考えが頭をもたげた。その答えは否で、レースなんだから最後までベストを尽くすということを考えるともうストックに頼って脚を残す必要はなかった。今残しても、どこに向けて残していくのか、いつ使うのか分からない。
ということで、それまで脚6:4腕という意識割合だったものを、それ以降8:2くらいにして脚に力を入れて進むことにした。進んでみると、当然脚に疲れはあるものの、これまでよりは軽く登れるようになった。いかに腕よりも脚の筋肉の方が強いか、ということを実感した瞬間である。
じきに久保田さんを抜き返して定位置の2番手になり、1つめの山塊を越えて一度通ったCPに戻ってきた。改めて水分とカロリーを補給して、ラストの区間へ。

鉄塔の下を何度としれない回数通過することから人によっては鉄塔地獄とも呼ばれる区間だが、自分はどこに鉄塔があるかを地図から予測し、次の鉄塔、次の鉄塔と近い目標に定めつつ進んでいたので全く苦にならなかった。また、時折変化するトレイルの方向、登り下りの程度から現在位置はほぼ分かっていたので力の加減は存分にできた。走れるところではできるだけ走った。走れた。
山を抜けて車道へ向けて降りるところでカメラマンと鉢合わせした。どうやらカメラマンは自分が走っているところをずっと追って撮影しているようだ。映像に残るということでときどき「もう少しだー」「下りてきたー」などと独り言を言いつつ、遂にバードハミングまでつながる車道に降り立った。明るいうちに下りてこられた。そこからフィニッシュまでジョグ。実際のところ歩きたかったが、撮影されているので走らざるを得ず、ずっと頑張って走り続けた(でも撮影されてないところで水分補給するときは歩いてた)。最後は1日目にも辿った風景を改めて辿って、6日目フィニッシュ!達成感のあるレースだった。

その後風呂にも入り、差し入れも含めて食事をして、更けた夜にフィニッシュする選手をゴール地点でできるだけ迎えた。ジオのドラマを感じたかったから。
自分はゴール地点での状況や表情しか見られなかったが、後に聞く限り山の中ではスイーパー・林道待機スタッフなども含めて完走を目指すドラマがあったようである。それをゴール地点での選手の歓喜の振る舞いから僅かでも感じられたのは良かったと感じている。
自分はフィニッシュ閉鎖時刻22時には力尽き、24時を過ぎてフィニッシュした最終ランナーを見ることなくジオ期間中最後の床についた。深夜に打ちつけた雨風の音は激しく、スマホを見ると竜巻注意情報も出ていて、図太い自分でも1時間ほど怯えて寝られない夜だった。

0 件のコメント:

コメントを投稿